April 04, 2010

数学≒芸術

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)■ 世にも美しい数学入門
● 藤原正彦
● 小川洋子

 学生時代には教えてもらえなかった、あるいは教えてもらったこともあったのかもしれないが、当時の私にはまったく響かなかった数学の魅力を数学者と作家の対談によって伝えてくれる1冊。この本は純粋な「数学の入門書」ではないだろう。だからこそ文系の人間にも伝わりやすいと思う。「博士の愛した数式」を読んだ方はついでにでも読んでみて欲しい。
 2人の対話から現れるのは、ただひたすらに数学の美しさ。ゲーデルの不完全性定理でさえその美しさを損なうことが無いのは思い込みと語り口によるものかもしれない。数学は難解であり、かつ決してすぐに役に立つものではないかもしれない。それでも魅力的なモノであることは否定できそうにない。
 個人的に考えさせられたのは数学とはなんだろう?ということ。以前は芸術的、感覚的なものの対極にあるように思っていたのだが、それは誤りではないかと思う。かと言って、数学とは芸術であると言い切ってしまうのも若干不安が残る。今現在の私の見解は隣接しているモノとしておきたい。

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March 13, 2010

おっぱいなんて好きじゃないんだから!

恋文の技術■ 恋文の技術
● 森見登美彦

 書簡体小説の傑作だとか手紙の並べ方の巧みさだとか哲学的な思考が内在しているのではないかとか、そんなことを語るのが本当にバカバカしくなる「面白い小説」であろう。理屈っぽいのに愛すべきバカという何とも憎めない主人公の書いた真面目なのに笑える手紙。そしてその手紙を受け取る人々も、どこにでもいそうだけれどもそれぞれに違った個性を持つ魅力的な人物たち。モラトリアム期の終わり近く特有の焦燥感やさり気なく挿入される能登や京都の風景も含んだその手紙だけで構成される……とかそんな解説は正直言ってどうでもいいと思う。
 読んで笑ってほんわかする。それがこの小説の楽しみ方であろう。おっぱい。

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March 11, 2010

不確定でもいいに違いない

量子力学とはなんだろう (岩波ジュニア新書)■ 量子力学とはなんだろう
● 長岡洋介

 結論から言うと「なんだろう?」である。わかったかと問われれば「わかりませんでした」と答えるほかない。ただし、これは私個人の物理、数学に関しての理解度の低さが要因にあると思われるのでこの本が難解であるというのとは別問題であることを付け加えておく。
 そもそも「量子力学がわかっている人は、世界中を探してもなん人もいないだろう」なんていう人がいるような学問であって、素人が手を出せる分野ではないのも事実なんでしょうが。それでもこの読書体験からが完全に無意味かと問われれば「いいえ」と答えたい。それは、「わかる」「わからない」が重ね合わされた途中くらい(限りなく「わからない」に近いとはいえ)には連れてきてもらえたのではないかと思うから。
 ともかくこの分野の可能性と難解さは嫌でも知ることができるであろう入門書。

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March 06, 2010

恐ろしく心地よく饒舌な

告白 (中公文庫)■ 告白
● 町田康

 面白い小説。とにかく語る。作者が語り、主人公が語り、登場人物たちが語る。恐ろしく心地よいテンポで、河内弁を駆使し、時に過剰なくらい饒舌に語られる思考の流れ。リズムに乗る気持ちよさを堪能させてくれる小説であろう。
 物語の舞台は明治初期の大阪の片田舎。個人的にはそこに不意に挿入される現代の視点での記述が面白い。例えば、年齢を重ねてもやくざ者でいる主人公と、その頃には家庭を持ち百姓としての暮らしを全うしているかつての仲間という構図を「これはフリーターと大学生がロックバンドを組んだ時と状況が似ている」と表現する。悪く言えば無秩序。でも、やはりそれが楽しい。
 また、主人公の魅力も無視できない。やっていることはどう贔屓目に見てもロクなものではない。極度に思弁的であることが、そんなロクでもない行動に出てしまう理由だとしても同情できないくらいには駄目であろう。しかし、やはり憎めない。そのキャラクターに時には笑いを誘われ、その思考には共感すらしてしまう。
 この心地よいリズムと愛らしい主人公によってこの小説の世界にはまり込む。そして語られる言葉に同調していく。その面白さこそが実は罠なのかもしれないが。ともあれこのリズムに揺られててみるべし。

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February 26, 2010

どこにでもありどこにもない

家庭の医学 (朝日文庫)■ 家庭の医学
● レベッカ・ブラウン

 貧血、薄暮症候群、転移、無能力といった家庭の医学辞典の項目のようなタイトルの付いた各章で語られるのは、癌に冒された母親に付き添う娘である著者の姿。簡潔にできうる限り冷静に、客観的に語られるごく個人的な出来事。似たようなことは多くの人に起こりうると思わされると同時に、それは全く同じ出来事では決して無く、換えることのできないただ一つの出来事であることもわかる。感情移入しきることはないものの客観視して無視することなんてとてもできない。
 家族を介護し看取る。その過程においてどうするべきなのか。その答えは恐らく人それぞれであろうし、そもそも正解なんてものはないのかもしれない。この本において母親は幸せだったろうか?著者を含めた家族はやりきれたのだろうか?それは私にはわからない。でもそこから伝わってくるものは確かに心にしみ込んでくる。

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February 20, 2010

足を踏み入れるあるいは迷い込む

インディアナ、インディアナ■ インディアナ、インディアナ
● レアード・ハント

 現状の描写、手紙、そして追憶からなる小説。そのそれぞれが断片的に時系列もバラバラに語られる。難解というほどのことはないと思うが、いきなり放り込まれた世界に戸惑う。ましてやその世界には喪失感が強く漂う。色で言うなら灰色の世界。救いようがないとすら思いかねない中にある、ほんの少しのユーモアに助けられつつ入り込んでいった頃になって気付かされる。その悲しいくらいの美しさに。
 できることなら時間的な余裕のある時に読んでもらいたい1冊だろう。読むと言うよりは感じる小説。であるが故に、ともすれば、訳が分からないとかちっとも面白くないと言われかねない本であることも完全には否定できない気がする。それでも美しい小説であることは間違いなく、私にとってそうであるようにあなたにとっても価値ある1冊になることを願う。

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January 29, 2010

穏やかな、それでいて激しい心の揺れを

わたしを離さないで■ わたしを離さないで
● カズオ・イシグロ

 とても静かで穏やかな、淡々とした思い出話。「介護人」、「提供者」、「保護官」。そんな名詞にやや違和感を覚えるかもしれないが大丈夫。そのまま読み進めていこう。語られるのは一見どこにでもありそうな思い出話。そのほんとうに何でもなさそうな話の中ですら否が応にも感じてしまうある予感。その予感が向かう方向は決して予想外のものではないだろう。それでもその頃には引き返す気にはならない。そして、何とも言えない感情に包まれることだろう。
 この本に関してはここで内容を語るのは適切でないと思う。その理由は筋書きを知ってしまったらつまらないということではなく徐々に明白になっていく予感を自分自身で味わって欲しいからである。さらに、この本を読んでいる途中に、そして読み終えたあとに感じる気持ちをどういった言葉で表現したら良いものか私には分からない。感動ではないだろうし、喜びや哀しみといったものとも違う。それでも心のなかに何かが残っていることだけは間違いない事実。この名前はつけられないが決して捨て置けない感情。それを感じる経験をさせてくれる紛れも無い良書。

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January 24, 2010

結論としてエロではない……のか?

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)■ もしもし
● ニコルソン・ベイカー

 エロ小説。

 には違いないのだが、楽しめること請け合い。というか、一般的にこの本について述べるときに最初に来るのはエロについてではない。まず、全編が2人の男女の電話での会話からのみ成り立っている「電話小説」なのである。なお、この電話が会員制のセックステレフォン。だから「エロ小説」ともいえるのだが、ここでの2人の会話の描写の緻密さは特筆すべきものがある。細かな動きの描き方、時には詩的とも言える繊細な表現によってこの小説は成り立っている。2人の会話の内容はそれぞれの過去、そして妄想。この妄想はエロいというか若干マニアック。アメリカの上空に浮かんで、マスターベーションしている女性が発するという地上に浮かび上がる光の点を眺める。これだけ取り出すとなんのことやら。それでもついていけるのは積み上げられる会話の精巧さによるのであろう。
 ま、なにはともあれ取り留め無いようでいてお互いがイくために着実に積み上げられていく会話を楽しむべし。

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January 23, 2010

ちょっと役立つ生活の知恵

小説の技巧■ 小説の技巧
● デイヴィッド・ロッジ

 書き出し、題名、視点といったものから間テクスト性、メタフィクション、アポリアなどまで、小説における様々な技巧が50項目に渡って解説されている。小説を書こうとする人にとっては大いに役に立つことだろう。当然、技術さえあれば面白いものが書けるかと言ったら、言わずもがな。それでも表現の幅を拡げることは可能であろう。
 私を含めた読者にとってはどうであろうか。この本の訳者あとがきにもあるとおり、どう読むかは完全に自由であるし楽しみ方は人それぞれ。面白いものが面白い。それでいいと思う。でも、ちょっとした知識を得るだけでより楽しめる可能性があるとしたら?読書のための読書だとしても時間を割く価値は十分にあるのではなかろうか。
 また、解説書には違いないのだが、読み物としても十分に楽しめることを付け加えておきたい。各章の冒頭に英米文学作品の一部が例文として提示され、その後にテーマに沿った解説が加えられるスタイルは飽きさせない。そのほんの短い例文自体でも文体の違いを味わう事も可能かと。ともあれ、本好きだったら後悔しない1冊。

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いつか君と行った映画がまた来る?

いちご白書 (角川文庫)■ いちご白書
● ジェームズ・クネン

 1960年代末、コロンビア大学の学園闘争。当時19才で同大学の学生であった著者によって描かれたノンフィクション。状況を時系列順に描きつつも、著者自身の内的思考、意識の流れにも多くが割かれ思想書、哲学書といった趣さえある。
 学生運動と言われても、私たちの世代にとっては古臭く、映像などで目にしたことはあってもそれが実際にあったことなのかすら上手く想像できなくらいである。しかし、当時の若者が抱えていた疑問や苦悩は今日においてもなんら変りないものなのかもしれない。かつ、当時の問題は全く解決されておらず、むしろ状況は悪化しているように思える。それでも表面的には平和な社会が成り立っているのは何故だろうか。「諦め」ではないと思いたい。「もう一度」すら懐メロとなった今だからこそ振り返ってみるのもいいのではなかろうか。

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«これもまた資本主義社会の側面?